展覧会と素材の思い出。
- 展覧会設計ゼミ
- 5月30日
- 読了時間: 4分
2023年の秋、私が初めて展覧会設計ゼミの展覧会に関わった時の役割は展示室の看視を
行うボランティアだった。その時に初めて作品が飾ってある展示室で昼寝からの爽やかな
目覚めのような、時間の止まった午後のような感覚を味わった。
2024年の展覧会では私はゼミ生の一員になり、展覧会の運営に関わることになった。
2023年に引き続きやわらかな午睡のような感覚を味わいつつも、展覧会に対してお客様
でもただの看視員でもないような感覚を感じていた。「ナイト ミュージアム」という映
画がある。主人公は博物館の夜間警備員として働くことになり、展示物たちが夜動き出し
大騒ぎしていることに気づく。蝋で作られた等身大の人間の展示物やミニチュアの人間の
展示物、恐竜の骨格標本などに振り回されつつ対話をし絆を深めていく。映画のように騒
がしくはないが大竹利絵子さんの作品が存在し息を吸って吐いて空気を作り出している展
示室で作品と対話をしながら監視する状況は、どこか映画で主人公と展示物が会話をした
り喧嘩をしたりするシーンを思い出すようだった。人をモチーフにした作品ということも
あり話しかけてきそうな感覚がある。そのためか展示室内の湿度や温度が気になり不安に
なったことも思い出深い。今年はアートテークに配置される展示物や建物そのものとどの
ような関係を結び、時間を過ごすことになるのか悩みつつ楽しみに日々を過ごしている。
今年の展覧会では透明なフィルムを使用する場合とコンクリートブロックを使用する場合
の二種類の展覧会案を計画し、検討を重ねている。透明なフィルムというと私にとっては
かなり馴染み深い素材だ。シールを剥がした後のペラペラのシート、OPP袋、カードを入
れるスリーブ、漫画本を包んでいる袋など……様々なものが思い浮かぶ。厚さや種類に
よって異なる触り心地、薄い場合は心許なくすぐに破れてしまいそうで厚いものは透明な
シートの上で指がずるっと滑る感覚がする。しばらく触っていると自分の指の熱気でしっ
とりと表面が曇りじとっとした手の汗を感じる。フィルムや袋のような透明な素材という
と何かを守るためのものという印象が強い。外の事物から守ったためにゴミや埃が集ま
る。展覧会でも透明フィルムを使うとなると様々なものが表面に集まるだろう。空間の中
にどのようなものが浮かび、循環しているのかフィルムによって可視化され、期間を経る
ごとに変化していく様は見てみたいなと思う。去年の展覧会のノベルティでも透明な素材を使用した。展覧会会期中に撮影した写真を使用し、大竹利絵子さんの作品の部分には白
版を印刷しそれ以外の背景の部分は透ける素材で発注した。日の光や緑を背景に透かして
見ると展示室に座ってのんびりとした時間を過ごしたり、作品をどこに置くか検討し実験
した日々を思い出す良い仕上がりになったと思う。それに私は透明な素材が好きなのだ。
そのこともあり愛着を感じる出来栄えになったと感じている。


コンクリートというと一軒家の周囲を取り囲む頑強な塀や地面を思い浮かべる。ある日遠
出して知らない街を歩き、近くにあった家のコンクリートのブロック塀の穴の中をみると
折り鶴が飾ってあったことを思い出す。私の祖父母の家のブロックの穴を覗いたときは蜘
蛛の巣が張っていた。あの穴には中に何があるのか?というワクワク感を感じられるとい
うイメージがある。また、夏の日に触るコンクリートのじんわりとした暖かさを思い浮か
べる。ザリザリとした触り心地で日光に照らされて中に練り込まれている素材がキラキラ
光る。そんな風に日の光に直接照らされているイメージの強いコンクリートが室内に置か
れひんやりとした空気の中に佇むとどのような感覚がするのだろうか。このように一人で延々と考えを巡らせていてもどうにもならないものである。今年はゼミ室に行くと積極的な意見やポジティブな言葉が飛び交うような時間を過ごしている。私のように一人で悶々と考えたり昔を思い出してぼーっとしている時間が長い人間にとってはとても良い刺激になる。これからのゼミの雰囲気はどのように変化し展覧会は最初の案からどう変わっていくのか楽しみにしつつ、より良いものに変えていこう。と思う。
芸術学科4年 ゼミ生K
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